Vol. 9 「007 ゴールデン・アイ

 今月は、公開中の作品「007 ゴールデン・アイ」を紹介しようと思ったのだが、この映画に関してはあれこれ解説しても余り意味はないので、代わりに私が思っている007シリーズの魅力について書いてみたいと思う。以前にも少し触れたが、私は007シリーズが大好きで、小学生の頃にTVで初めて見て以来その魅力にとりつかれ、今ではLDで出ている16作品全てを揃えるくらいのファンである。

 どこがそんなに良いのかと言うと、「とにかくジェームズ・ボンドがカッコいい!」の一言に尽きる。いまさら説明する必要もないと思うが、ジェームズ・ボンドなんて名前聞いたこともない、という人の為に一応解説しておくと、コードネーム007ことジェームズ・ボンドは殺人許可証(LICENCE TO KILL)を持つ英国の諜報部員である。すなわち、彼は任務の上で人を殺したとしても決して殺人罪に問われることはない、という正義のヒーローにとっては非常に好都合な設定になっているのである。射撃の腕はもちろん超一流。ドライビング・テクニックもプロ並で、さらにヘリコプターからモーターボート、果てはスペースシャトルに至るまで、操縦できないものはまずないと言って良い。スポーツもスキーからスキューバ・ダイビングまで大抵のものは難なくこなし、ギャンブルをすれば必ず勝つ程の強運も持っている。当然の事ながら女性にはメチャクチャもてるし、出会った女性とは必ずベッドを共にする程の女好きでもあるが、決して下品にはならない。007シリーズとは、このようなある意味で男性の理想を全て具現化したようなスーパーマンが世界征服を企む悪者と戦う、という非常に単純明快なストーリーの映画なのである。

 このように書くと、「ダイ・ハード」や「スピード」等の作品と余り変わらないのでは、という印象を受ける人もいるかもしれないが、細かく見るとかなり違っている。例えば、主人公が常にダンディなことも大きな違いの一つである。ボンドは常にスーツやタキシードで行動し、たとえ爆発に巻き込まれても決してマクレーン刑事のように顔をすすだらけにしたりすることはない。軽くズボンのほこりをはたき、ジョークの一つも言いながら何事もなかったかのようにその場を立ち去るのである。この辺のハリウッドにはない英国の大人の余裕のようなものが、私はとても気に入っている。(ちなみに007シリーズはイギリス映画である)確かに、それではリアリティがないと言われるかもしれない。が、こと007シリーズに限って言えば、そのような指摘はヤボというものである。なぜなら、このシリーズの作品はそういったことを楽しむ映画ではないからであり、要はそこに至るまでの課程を楽しむ映画だからである。

 ただ、いくらリアリティなど関係ないとは言っても、さすがにシリーズ一作目が作られた34年前と(ジェームズ・ボンドのスーパーマンな設定も含めて)同じスタイルで作品を作るにはいささかつらくなってきたのも確かである。そこで、最新作の「ゴールデン・アイ」では、今までのシリーズには見られなかった新しい要素や従来のパターンを破るような設定も見られるようになってきている。しかも、なおかつちゃんと007映画にもなっているので、昔からのファンも安心して楽しめる作品になっている。とにかく、こむずかしい理屈は抜きにして単純に楽しめる映画として007は最適なので、過去のシリーズ作品と併せてぜひ一度見てみることをお勧めしたい。

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