Vol. 8 「GHOST IN THE SHELL -攻殻機動隊-

 前回の「スニーカーズ」の中でもコンピュータ・ネットワークを利用した犯罪が出てきたが、今回紹介するアニメ映画「GHOST IN THE SHELL ―攻殻機動隊―」(原作・士郎正宗、監督・押井守)は、それよりもさらにネットワーク化が進み、世界中のありとあらゆる物が(人体に至るまで)ネットに接続された世界の話である。この世界ではネットワークと共に人類のサイボーグ化も進んでおり、人によっては脳以外の肉体全てを「義体」と呼ばれる人工組織に変えている。さらにその脳も「電脳化」する事によって、コンピュータ等に脳から直接アクセスしたりする事も可能になっているのである。この話の主人公、草薙素子もそんな「義体」を持った人間の一人で、彼女をリーダーとする「攻殻機動隊」と「人形使い」と呼ばれるコンピュータ・ハッカーとの戦い、というのが(一応は)ストーリーの軸になっている。

 ところで、ここで一つ断っておくと、この作品は今まで私が紹介してきた作品の中でも特に趣味的な色合いが強い作品である。従って、この記事を読んで実際に作品を見た人が同じ様に面白いと感じるかどうかという点については、まるで自信が無い。と言うのも、もともと士郎正宗の原作というのが、専門用語がワラワラと出てくるような物である為、(一部欄外に注釈が付いているとはいえ)分からない人にとってはそれだけでチンプンカンプンになってしまう。さすがに映画の方は注釈を付けるわけにはいかないので、その辺はある程度抑えられてはいるものの、それでもやはり専門用語は頻繁に出てくる。またそれとは別に、押井守の作品の多くは特にアニメファンではない普通の人々にとっては(場合によってはアニメファンである人にとっても)難解である事が多く、しかも今回の作品の様に話のクライマックスであっても派手に盛り上がったりしない事も多いので、正直な話、見てもなんかつまらなかったり、途中で寝てしまう人も多いらしい。(もっとも、私には今回の「GHOST IN THE SHELL」は、押井作品の中ではどちらかと言うと分かりやすい方に入ると思えるのであるが…)

 では、この作品の見どころは何かと言えば、それはアニメーション作品としての完成度の高さである。従来のセルアニメにCGやデジタル合成を見事に融合させた映像は、現在の日本のアニメ界においてトップ・クラスのものである事はまず間違いない。しかも、そのCGやデジタル合成といった技術を決して目新しさではなく、演出上の必然性を持った使い方をしている為、他のシーンとの違和感が感じられないのである。また、通常のセルアニメの部分においても、非常に精密に描き込まれた背景等は目を見張るものがあり、TVアニメとは明らかに違う密度の高い画面に驚かされる。はっきり言って、この映像だけを取っても一見の価値があると思う。

 確かに、上に挙げた以外にも、音楽にかなりクセがあるとか、ストーリーが「ブレード・ランナー」(ディレクターズ・カット版)を連想させるらしい、(筆者はこの作品を見たことがないので何とも言えないが…)等々、幾つか問題点もあることはあるが、私としてはそれなりに満足できる作品だった。(できれば、もう少し上映時間が長い方が良かったけど)ちなみに、原作を読んでから映画を見るとかなり分かりやすくなるので、この記事を読んで見てみよう思われた奇特な方には、ぜひ、そうされる事をお勧めする。

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