Vol. 10 「MEMORIES

 御存知の方も多いと思うが、ここ数年、日本のアニメーションの海外での人気が非常に高まっている。元々、日本での放映が終了したアニメを外国のTV局が買って放映したりすることは以前から結構行われていた為、日本製アニメ自体は既に海外でもかなり浸透していたが、その当時は「暴力シーンが多く子供に悪影響を与える」等のクレームもあったりして、イメージ的には必ずしも好意的なものばかりではなかった。それが、「アキラ」の海外での成功によって大人でも楽しめるような内容や画面の質の高さなどが次第に認められるようになり、また、ジェームズ・キャメロン等の映画監督が日本アニメのファンであったりしたことなどもあって、近年、特に注目されるようになってきたようである。最近では、TV用の作品ばかりでなく劇場用作品やOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)等もどんどん輸出されているが、これらの日本製アニメは「ジャパニメーション」と呼ばれていて日本以上に熱狂的なファンもいるそうである。(ちなみに「オタク」も英語として立派に通用するらしい)逆に日本のアニメ製作会社も、海外市場まで計算に入れた上で作品を製作するようになってきており、例えば、以前に紹介した押井守監督の「GHOST IN THE SHELL ―攻殻機動隊―」でも作品中でCG技術が盛んに用いられている為、その分製作費も通常の作品より多くかかっているのだが、これも外国での劇場公開やビデオの発売による売り上げを見込んだ上でのことである。

 少々前置きが長くなったが、今回紹介する大友克洋監督の「MEMORIES」もそんな作品の一つである。大友克洋といえば、前述でも少し触れた「アキラ」の原作及び監督を務めた人物であり、海外でも特に知名度の高いアニメ監督である。この作品は、その大友克洋の7年振りの新作ということで海外での注目度も高く、事実、日本での劇場公開終了後は欧米でも劇場公開される予定である。

 「MEMORIES」は「彼女の想いで」、「最臭兵器」、「大砲の街」という3話からなるオムニバス作品で、それぞれが完全に独立した作品になっている。1作目の「彼女の想いで」は21世紀の宇宙空間を舞台にしたハードなSFドラマで、大友克洋らしいディテールまで描き込まれた画面と全編を通して流れるオペラ音楽が印象的である。また、CGによる特殊効果も随所に使われており、3話の中では最も「アキラ」に近い作品になっている。2作目の「最臭兵器」は逆にコメディ・タッチの作品で、ひょんな事から「最臭兵器」になってしまった男とそれによってパニックに陥る人々のドタバタを描きながら、現代の日本を痛烈に皮肉っている。(実際、一部シャレになってない所もある)どちらかというと、「アキラ」以前の大友作品に近いと思う。3作目の「大砲の街」は時代も場所も分からない架空の街を舞台にした、全編ワンシーン、ワンカット(アニメでこれをやるのは、はっきり言ってかなりムチャである)の一見実験アニメ風の作品で、私は3話の中で最も気に入っている。特にドラマチックな展開があるわけではないが、(作品中の世界での)日常を淡々と描くことによって逆に最もテーマ性を持った奥深い作品となっている。3作とも作品自体は気軽に見て楽しめるものなので、ビデオで発売された際などに一度御覧になって欲しいと思う。

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