Vol. 7 「スニーカーズ

 今月は劇場公開中の作品を紹介しようと思っていたのだが、残念ながら公開日が今日(11/18)だったので、この作品は次回に回す事になってしまった。そこで、今回もビデオ作品の紹介なのだが、その前に最近の映画やアニメに出てくる悪役について一言言わせて頂きたい。その昔、私が子供の頃に見ていた映画やTVアニメに出てくる悪役というものは、大抵世界征服の野望なんてものを抱いているものだった。例えば、私が心から愛している007シリーズ(これについても近いうちに紹介したいと思っているが…)について言えば、シリーズ初期におけるボンドの敵は「スペクター」という世界中で暗躍する悪の組織であり、彼らの目的はもちろん世界征服であった。ところが最近は、この007シリーズも含めて世界中を手に入れようなどという事を考えている連中を余り見かけなくなってしまった。今時、世界征服を本気で企んだりしているのは、子供向けの特撮ヒーローの敵か、TVゲームのラス・ボスか、怪しげなガスを撒き散らしている某教団ぐらいである。では、なぜこうも悪役のスケールが小さくなってしまったのか?私は、世界征服という言葉に現実感が無くなってきたからではないかと思う。つまり、仮に世界を征服したとしても、それほどのメリットがあるとは思えないのである。そして、それ以上にそれを行なう現実的な手段が無いのである。(実際にできるかどうかではなく、実際にできそうだと思わせられるかどうか、という事)昔はよく「核ミサイルを奪って…」なんて事があったが、そんな事がそう簡単にできない事など今や誰もが知っている。では、今の世の中で世界征服を企むとしたら、どういう手段があるのか?前フリが非常に長くなったが、この疑問に対する答えの一つを今回紹介する「スニーカーズ」が示していると思う。

 この「スニーカーズ」は1992年の作品で、監督はフィールド・オブ・ドリームスのフィル・アルデン・ロビンソン、主演はあのロバート・レッドフォードである。(ちなみに「スニーカーズ」というのは、ビルのセキュリティシステムのチェックを行う為に実際にそのビルに侵入し、そこのシステムの問題点を指摘する事を商売にしている連中の事で、アメリカには実在するそうだ)この作品の中で、主人公であるビショップの昔の親友コズモ(実はこの映画はこの二人のホロ苦い友情の話でもあるのだが…)は、世界中のあらゆるコンピュータに「ブラック・ボックス」(中身については内緒…)を使って侵入し、その中の情報を操作して世界を自分の思い通りに動かそうとするのである。個人的にこれは、(実際にそんな事ができるのであれば)現代社会における世界征服の手段として十分有効ではないかと思う。そして、今後情報社会のネットワーク化がさらに進むにつれて、こういった犯罪が及ぼす影響も非常に大きなものとなっていくはずである。(この辺は、来月紹介する予定の作品にも通じていたりする)

 映画の話に戻すと、この作品の魅力は何と言っても、彼らがビル侵入の際に用いる赤外線カメラや超指向性マイクといったスパイもどきのハイテク機材の数々である。それらを使って、これまたその道のエキスパート達(元コンピュータハッカー、元CIA等々)がまんまと仕事を成し遂げていくのであるが、そもそも私は、こういういろんな技を持った連中がその技を駆使して活躍する、といった「水滸伝系」(?)の話に弱いので、それだけで気に入ってしまった。また、もう一つ私がこの作品を気に入っている理由に音楽がある。この手の映画にありがちなものとはちょっと違っていて、必要以上に盛り上げようとしないところがとても良いのである。特にメインテーマなどはミスマッチと言えそうな程落ちついていて、それが逆に洒落た感じを出している。演出ついても派手さは無いもののちゃんと計算されていて、特に「ブラック・ボックス」の謎を解くシーンの見せ方は非常にかっこいい。ラストのシークエンスの演出も見事で、脚本の秀逸さもあって見る度に「うまいなあ」と思ってしまうのである。もっとも、「ブラック・ボックス」をめぐる争奪戦といっても、元々探偵のような地味な商売の連中という事もあり、どちらかというと頭脳戦がメインである。その為、派手なアクション等はほとんど見られないので、(爆発に至っては皆無である)ダイ・ハードの様なものを期待する人には向かないかもしれない。

 この作品、劇場公開時の宣伝が非常に下手だった(特にTV・CM等はどう見ても勘違いしてるとしか思えず、私自身、実際に作品を劇場で見た時は想像していたイメージとまるで違うので驚いた程)為、話題にもならず余りパッとしなかったのだが、個人的にはもっと評価されても良い作品だと思う。もし、ビデオ屋で見かけたら、ぜひ一度見てみる事をお勧めしたい。(果たして、私は「信用」して貰えるだろうか…)

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