Vol. 4 「耳をすませば

 このコラムも早くも4回目となったが、今まで取り上げたのは比較的マイナーな作品ばかりだったので、今回は珍しく(?)メジャーな作品を紹介したい。(ちなみに、公開中の作品を紹介するのも4回目にして初めてである)しかも、今回はアニメ作品(昔はこっちがホームグラウンドだったのだが…)であり、今やあの黒沢明と共に日本を代表する監督とまで言われている宮崎駿の作品(厳密には違うが)ということで、いつも以上に独断的な文章になると思われるがその点はご了承願いたい。さらに、多少専門用語(?)も出てくるが、これについてもあらかじめお断りしておく。(用語の解説についてはまた別の機会としたい)もっとも、今回紹介する「耳をすませば」に関しては各方面での評価も高く、既に見に行かれた方もかなりいると思うので、私がここで敢えて紹介する必要もないかもしれないのだが。

 さて、その「耳をすませば」であるが、作品の出来としてはやはりさすがという感じである。ストーリーについては、一言で言うと直球勝負の爽やか恋愛映画である。原作が「りぼん」に掲載された作品ということもあって、(と言っても、この記事を読んでいる人で「りぼん」を読んだことのある人はかなり少ないと思うが…)はっきり言って、見ているこちらが気恥ずかしくなるような会話もあったりするので、この手のものが生理的にダメな人にとってはお勧めできないかもしれない。いずれにしても、ストーリーに関しては見る人によって好き嫌いが分かれるような内容であるので、ここで多くを語るのは避けるが、少なくともアニメーション技術については現在の最高レベルであることは確かである。中でも特に素晴らしいのが、アニメーションによる現実社会の生活描写である。アニメによる現実の日常生活の描写は、既に「おもいでぽろぽろ」や「平成狸合戦ぽんぽこ」等の最近のジブリ作品でもかなり見られていたが、この作品ではそれらをさらに上回っている。例えば、主人公である雫が住んでいる団地の中の様子や街並み、通学路などが、まるで実写の作品であるかのように非常に細かく描き込まれている。しかもただリアルなだけでなく、とても魅力的な街として描かれているのである。この話は現代の東京郊外(と思われる)の架空の街が舞台になっているのだが、ありふれたベッドタウンにもかかわらず画面を見ているうちに次第に自分もそこへ行ってみたいという気になってくる。(実際、映画を見た後モデルになったと言われている街を訪ねて、作品に出てくる様々な場所を確認しに行く人が多いらしい)

 それからもう一つ、これはこの「耳をすませば」に限らずジブリ作品全てに共通する特徴でもあるが、作品に登場する人物の芝居がいずれもとても自然なのである。そもそも人間(に限らないが)の行動にはそれぞれ根拠があるはずで、この作品ではそれらがきちんと表現されている為に各キャラクターの動作に非常に説得力があるのである。特に日常のなにげない仕草、歩いたり、走ったり、立ち止まったりといった行為がとても丁寧に描かれている。これは一見何でもないような事であるが、人間の役者が演技をする実写作品と違って、セル画を一枚一枚描かなくてはいけないアニメの場合、描き手がそれらの動作の一つ一つを理解した上で、さらにそれを絵にしていかなければらない。むしろウソがつけない分、このような日常的な動作の方が難しいとも言えるのである。

 最後に、この作品をよく「宮崎作品」として紹介されているのを見かけるが、前述のように厳密に言うと少し違う。確かに宮崎駿は参加してはいるが、監督はあくまで近藤喜文である。ご存知の方も多いと思うが、一連のいわゆる「宮崎作品」は、一部を除きスタジオジブリという所で制作されている。また、スタジオジブリで制作された作品でも宮崎駿が直接タッチしていない作品(高畑勲作品など)もあり、むしろ最近はこれらも含めて「ジブリ作品」と呼ぶことの方が多いようである。(私も取りあえずここでは「ジブリ作品」と呼んでいる)いずれにしても、この「耳をすませば」を宮崎作品と呼ぶのは誤りだと私は思うのだが、とはいうものの、脚本、絵コンテ(ついでに制作プロデューサーも)は宮崎駿によるものであり、また近藤監督自身も宮崎作品には作画監督等として長く関わっていることもあって、やはりかなり宮崎色の強い作品になっていることも事実である。

 細かいことはともかく、とりあえず親子でもカップルでも安心して見られるので、まだ見てない方は併映の「On Your Mark」(6分程度の短編。こっちは本当の宮崎作品)も含めて御覧になることをお勧めする。

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