Vol. 3 「Love Letter

 今月は、中山美穂主演の「Love Letter」を紹介したい。早い話が、「もし、そこが山田さんちーやったら、手紙は届かへんのや」(by 松本人志)ってヤツである。始めに断っておくが、はっきり言って私は中山美穂があまり好きではない(ファンの人ごめんなさい…)。では、なぜ観に行ったかと言うと、監督である岩井俊二の初の劇場用長編作品だからである(ついでに言うと、関西弁をしゃべる豊川悦司も観てみたかった)。岩井俊二と言われてもピンとくる人は多分少ないと思うが、彼は最近非常に注目されている若手映像作家である。(フジの深夜番組が好きな人なら「La Cuisine」と言う番組の中で放送された、「ゴースト スープ」や「フライド ドラゴン フィッシュ」という作品を聞いたことがあるかも知れない)そんな訳で、ある程度期待しながら観に行ったのだが、観終わった後の印象を一言で言うと「こんなモンかなあ、でも、さすがだなあ」という感じだった。

 この作品は、一人二役を演じる中山美穂が見所の一つになっていると思うのだが、これについては大成功である。(ネタばれになるし、それ以前に説明するのがかなり面倒臭いので、ここで詳しくは触れないが)とにかく、中山美穂が演じている博子と樹という二人のキャラクターの描き分けが、非常にしっかりしている。二人を区別する為に、眼鏡を掛けたり、髪形を変えたりということを特にしている訳ではない(強いて挙げれば服装と住んでる場所ぐらいである)。にもかかわらず、同じ顔をした人物がちゃんと別々の人間に見えるのは、中山美穂の演技もさることながら、やはり岩井俊二の演出力によるところが大きいと思う。観終わった後では、むしろそれぞれの役を別々の人間が演じていたら、かえってつまらないものになっていたんじゃないか、とまで思える辺りは、さすが岩井俊二といった感じである。

 それから、屈折した役やイヤミな役を演らせたらピカイチ(と個人的には思っている)の豊川悦司については、今回は関西人の役ということもあって(?)妙に明るく、(はっきり言って、こんなに笑う豊川悦司を観たのは初めてである)前向きなキャラクターだったので非常に新鮮だった。あと他では、中学時代の樹(酒井美紀)が、いかにもその辺にいそうな普通の子、というような感じでリアリティがあり、その分感情移入もしやすかった。この辺の演出は安心して観ていられる、という感じがする。

 ただ、難を言えば、いろいろと詰め込み過ぎの様な気がする為、結果的に2時間はちょっと長いかな?という印象を受ける。例えば、中学時代の樹のエピソードなどは、もう少し整理すれば、もっとすっきりしてテンポも良くなったと思う。もっとも、初めての劇場用作品を撮る映画監督というのは、誰でもあれこれと自分のやりたい事を欲張ってやってしまう(らしい)ので、これは仕方がないのかも知れないが。やはり、最初の頃は誰でも、(次の作品を撮れる保証が無いので)やれる時に全部やっておこう、と思うのだろうか?(これはあくまで個人的な推察である)

 色々と書いてきたが、邦画が嫌いでなければ、やはり一見の価値はある作品だと思う。ただし、観る時は(男性の場合)女性と一緒に観ることをお勧めする。少なくとも、男同士で観るのは避けた方が良さそうである。

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