Vol. 15 「

 ここ数カ月は旧作の紹介ばかりになってしまったのでたまには新作をというわけで、今月は永瀬正敏主演、林海象監督の「罠」である。御存知の方もいると思うが、この作品は一年ほど前に紹介した「遥かな時代の階段を」、そしてさらにその前の「我が人生最悪の時」と共に「私立探偵 濱マイク シリーズ」3部作となっていて、この「罠」がシリーズの完結編である。全作までの「横浜の黄金町を舞台にした探偵アクション」という基本路線はもちろん同じであるが、今回の「罠」ではアクション部分がやや抑えられ、どちらかというと今流行りのサイコホラーといった印象が強くなっている。(こう書くと「セブン」辺りの影響を受けているように思われるかも知れないが、偶然時期が重なっただけで監督自身のアイデアはその前からあったらしい)

 で、この「罠」の見どころであるが、なんといっても主演の永瀬正敏とゲストの(今をときめく)山口智子の演技である。二人とも元々芝居のうまさには定評があるが、この作品ではその実力が遺憾なく発揮されていると思う。まず永瀬正敏だが、今回は主人公の濱マイクの他にもう一人ミッキーという役を演じており、初めての一人二役に挑戦している。このミッキーというのは、実は「何らかの精神異常がある(ように見える?)人物」という設定になっていて、その狂気じみた演技は観てるこちら側も圧倒される程の迫力がある。(これは余談だが、彼はラストの下水道(本物)の中での格闘シーンでは全身泥まみれになり、最後は下水の中で目まで開けていたそうである)一方の山口智子もTVドラマでよく見せるようないわゆる「山口智子的なキャラクター」とは違い、表向きはミッキーを弟のようにかわいがりながら真面目に働く町工場の工員、でも実は…、というような不気味なキャラクターを好演している。(これまた余談だが、ちょっと色っぽいシーンもあったりする。ただし過剰な期待はしないように…)もちろん、この二人以外にもマイクの恋人役の夏川結衣、マイクの協力者役の杉本哲太等のゲスト、さらには、完結編ということで今回はなかなかかっこいいシーンもある「情報屋ホシノ」役の(ウン・ナンの)南原清隆、相変わらずの渋さがカッコイイ「エースのジョー」こと宍戸錠、今回は出ないのかな?と思わせつつやっぱり出ている佐野史郎、といったレギュラー陣など、とにかく個性的で芸達者な役者が揃っている。

 確かに、脚本的には所々粗い部分もあって、「ちょっと都合良すぎるかなあ?」と思うようなところもあるにはあるが、その辺は演出の勢いが充分カバーしていると思う。実際、そうはいっても謎解きの部分などはちゃんと楽しめたし、ホラーという点でも生理的に嫌悪感を抱くようなジワジワ来る不気味な恐さがあって、個人的には全3作の中で一番面白かった。(できればもう少しアクションシーンと黄金町らしい絵が欲しかったけど)監督自身は、十年くらい経ったらその頃の濱マイクを撮ってみたいと言っているので、実現するなら是非また観てみたいと思う。

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