Vol. 13 「王立宇宙軍 オネアミスの翼

 少し古い話で申し訳ないが、去年の10月から今年の3月までTV東京で「新世紀エヴァンゲリオン」というアニメが放送されていた。内容についてはここでは触れないが(もっとも、内容に触れようとしたらとてもこの程度のスペースでは書ききれない…)、ご存知無い方の為に一応説明しておくと、放送が開始されると同時にアニメファンの間で大ブームが起き、今やアニメファンやオタクで「エヴァ」を知らない人はまずいないという程である。しかも、(ラストがある意味で衝撃的な内容であったこともあって)放送が終了した今もブームは続いている。この「エヴァンゲリオン」を制作したガイナックスは、元々アマチュアで自主制作のアニメや実写作品を作っていた集団が興した会社で、その頃から一部のマニアの間ではかなり注目されたりしていた。そのガイナックスが初めて制作した商業作品が、今回紹介する「王立宇宙軍 オネアミスの翼」である。

 この作品の内容を一言で言えば、オネアミスという架空の星に住む一人の青年が、(オネアミスでの)人類初の有人ロケットを打ち上げる話である(笑)。これだけでは何なので一応ストーリーを簡単に説明すると、オネアミスのとある王国には王立宇宙軍という、いずれやって来るかもしれない外宇宙からの敵に対抗する為に組織された軍隊があった。しかし、実際は宇宙旅行どころかロケットの打ち上げすらままならず(オネアミスの技術力自体、まだそこまで発達していない)、軍の人間もロケット技師の爺さん達と10人程度の隊員がいるだけ。国からの予算もほとんど無く、市民からも笑われるような、いわゆるお荷物集団なのである。そんな隊員の一人、シロツグも学校を卒業して何となく入隊したものの特に目的があるわけでもなく、他の隊員達と共にただ毎日をダラダラ過ごしていた。ところが、ある日リイクニという女の子に出会ってから突然ヤル気を出し始め、初の有人宇宙飛行(といっても、オネアミスの衛星軌道上を周回するだけなのだが)を実現させる、と言い出す。最初はバカにしていた仲間達もそのうち本気になり始め、様々な困難の末、最後は見事ロケットの打ち上げに成功する、といった話である。

 この作品の魅力は、第一に非常に緻密で、色彩豊かに描き込まれたその画面の美しさである。一枚絵としても充分鑑賞できる程のレベルであるのに加え、それが動画として非常に正確に動いている。現在はともかく、当時のアニメでこれほどちゃんとした動きをする作品は、他にはほとんど無かったと言っていいと思う。そしてもう一つの魅力は、細部にまで徹底的にこだわったリアルな生活描写である。それこそ、戦闘機から日用雑貨、風習や遊びに至るまで、全てのものを「オネアミスの文化」のもとにきちんと構築することによって、「地球によく似ているが、決して地球ではない星」の存在に強い説得力を与えている。そしてさらにつけ加えるならば、当時公開されていた劇場用アニメの多くが何らかの原作付きの作品であったのに対し、この「オネアミスの翼」は全くのオリジナル作品だったことも評価すべきだと思う。

 他にも、音楽をあの坂本龍一が担当していたり、シロツグの声を今をときめく(?)森本レオが演じている等、見どころも沢山あり、その後のガイナックスの原点とも言えるこの「オネアミスの翼」は、私のお薦めの一本である。

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