Vol. 11 「櫻の園

 私が去年の4月にこの連載を始めてから早くも1年経とうとしているが、実はこの連載を始めた時から1年後に必ず紹介するつもりだった作品を紹介しようと思う。それは「櫻の園」という作品で、何を隠そう毎年今頃の桜の咲く季節になると必ず見たくなる、私の大好きな作品である。この「櫻の園」は1990年に公開され、毎日映画コンクールや日本アカデミー賞、その他その年の数多くの賞を総なめにした作品で、以前紹介した「12人の優しい日本人」でも監督をしていた中原俊が一躍有名になった作品でもある。(余談だが、「12人の優しい日本人」をわざわざ劇場に見に行った理由の一つが、「櫻の園」の中原俊が監督だったから、だった)内容は、櫻華学園というとある女子校の演劇部の話で、この学校では創立記念日の恒例行事として毎年演劇部による「桜の園」(これは実在する有名な戯曲)の公演を行うことになっているのだが、その前日に演劇部の一人がタバコを吸って補導されてしまった為、公演が中止になるかもしれない、ということになってしまう。そんな公演当日の演劇部員達の開演前の2時間をほぼリアルタイムで描いた作品である。

 で、この作品のどこがそんなにすごいのかというと、まず、脚本が非常に良くできているということ、そして、メイン・キャストの23人全員が10代の女の子で、しかもつみきみほを除いてほとんど無名の役者ばかりを使ったということである。まず脚本についていうと、とにかく作品中で交わされる女の子達の会話が本物っぽくて、男の私が見ても何となく分かるというか、ありそうという感じがとても伝わってくるのである。特に職員会議で公演中止が決まりそうだ、という話を聞いて、(行ってどうなるわけでもないのに)みんなで職員室に押しかけたりする場面などは、体育祭や文化祭で「青春」したことのある人ならば、結構共感できるのではないだろうか?また、主役に抜擢された知世子が、覚えられなくて必死に練習している

「桜の園」の主人公のセリフが、そのまま知世子本人の心情を吐露していたりするなど、とにかく脚本のうまさが光っている。もちろん、全編こんな中学生日記のようなシリアスなシーンが続くわけではなく、合間に交わされる彼女たちのたわいもないおしゃべりなども作品の大きな魅力の一つである。(脚本を書いたじんのひろあきは、この作品の為にわざわざ街角で女子高生の会話を録音して参考にしたりしたそうである)

 役者に関しては、中原監督による撮影の何カ月も前から徹底的にリハーサルを繰り返すというやり方によって、ただ集めてきて撮影したのでは決して出せないようなリアリティを生み出すことに成功している。(ちなみにこのやり方は、このあとの「12人の優しい日本人」でも行われている)この作品の中では、特につみきみほの演技が良いのであるが、他の役者達も「櫻の園」がきっかけで結構注目されるようになり、当時はまだ無名だった白島靖代や中島ひろ子などもこの作品からメジャーになっていった。

 上に挙げた以外にも、「三角関係」がせつない開演直前のシーンや非常に美しいエンド・クレジットなど見どころも多く、作品中に時々挟まれるきれいな桜のシーンも含めて、見ていて何となくなつかしい気分になる佳作である。

 CINE HOME