Vol. 7 「Lie lie Lie」

 先月、私の好きな俳優として永瀬正敏の作品を紹介しましたが、同様に豊川悦司もまた、私の好きな俳優の一人です。豊川悦司を最初に知ったのは、以前ここでも紹介した「12人の優しい日本人」を観た時です。その時の印象は(役のせいもありましたが)ハ虫類的でアクの強い役者だな、という感じでした。その後、TV版「NIGHT HEAD」を観て名前を覚えたんですが、実は脇役として結構色々な作品に出ていることが分かってきて、その頃から気になる俳優の一人になりました。それが「愛していると言ってくれ」でいつの間にか大ブレイクしてしまって、気が付くと「傷だらけの天使」、「MISTY」、そして今回紹介する「Lie lie Lie」と、今年だけでも既に3本の映画に主演する程の超メジャー俳優になってしまいました。(さらに、10月からは再びTVドラマにも出ています)

 ところで、この「Lie lie Lie」という作品ですが、例によって(?)そんな映画聞いたこともない、という人もいるかと思います。実際、私も公開の3日前までノーチェックでした。それが、なぜ突然観に行く気になったのかというと、主演が豊川悦司であるということももちろんですが、監督が(私の好きな)「櫻の園」や前述の「12人の優しい日本人」の中原俊であり、そして、さらに内容が詐欺師の話だったからです。(私はこの手の騙し合いの話が割と好きなので)どんなストーリーかというと、写植ライターの波多野の所にある日突然、高校時代の同級生の相川が転がり込んできて勝手に住み着いてしまいます。で、実はその相川というのは(自称3流の)詐欺師だったんですが、ある時、波多野が睡眠薬を飲んでラリっている時に書いた詩がなかなか面白いということで、それを「幽霊が書いた本」として売り出そうとします。そこに出版社のやり手の女性社員の宇井が加わって…といったような内容です。基本的に小難しい内容は一切なし。相川の軽快なセリフ回しがそのまま映画そのもののテンポにもなっているような作品で、この辺の口八丁手八丁でどんどん話を勧めていく展開は、植木等の「無責任男シリーズ」にも通じるモノがあるような気がします。

 で、今回、豊川悦司はこの相川を演じているのですが、詐欺師ということで、当然、一番セリフが多い役です。そのため、豊川悦司について、いつもの割と口数の少ないクールなイメージしか持っていない人には結構新鮮かもしれません。また、自ら出演を決めたという、鈴木保奈美が演じる宇井のキャリアウーマンぶりもとてもカッコ良いです。(実際、この話の中で一番頭が良いのは、恐らく彼女でしょう)

 ところで、私がこの作品で一つ気に入ったのは舞台美術、すなわちセットです。特に波多野の仕事場兼住まいである部屋などは非常に良くできています。昔、倉庫か何かだったところを改造して住んでいる、という設定らしいのですが、床の汚れ具合から壁のポスターの跡、さらには、部屋の隅にある今は既に動かなくなってしまったらしい、荷物の搬入出用エレベータまで、どれもとてもリアルで説得力があります。実は、この作品の美術を担当している稲垣尚夫は、上に挙げた「櫻の園」や「12人の優しい日本人」、さらにはあの「うなぎ」なども担当している、一部では結構有名な人らしいです。そんなわけで、もし、この作品を観る機会がありましたら、ぜひ、その辺にも注目してみて下さい。

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