Vol. 51 「ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃」

 で、今月は、そのゴジラの新作、「ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃」なんですが…。そもそも、ゴジラを含めた怪獣映画というのは作るのが非常に難しい映画です。そもそも、体長数十メートルの巨大生物が存在すること自体が不自然なんですが、さらに、それらが街を壊しながら歩き回ったり、空を飛んだり、最後は口から光線を吐いたりするという時点で、もう既に話にムリがあります。(笑)しかも、ゴジラシリーズなどは、それにいろいろな制約、いわゆる「お約束」が加わってくるわけです。例えば、必ず怪獣のバトルシーンが無くてはいけない、とか、ゴジラは倒されても完全に死んで(消滅して)はいけない、とか…。そして、何より怪獣映画は、通常の映画よりお金も掛かります。ですから、監督や脚本家はそれらの制約を乗り越えつつストーリーを考え、人間側のドラマを作り、場合によっては怪獣達の存在理由まで設定しなければなりません。

 いずれにせよ、最初から話にムリがある世界なわけですから、あとはいかにそれらが不自然に見えないような世界を作り上げるか、言い換えれば、いかに上手に嘘をつくか、が重要になってきます。ただ、これは、言うほど簡単ではありません。「スター・ウォーズ」のように100%誰も見た(行った)ことのない世界であれば、いくらでもウソはつけますが、舞台が現実の日本に限りなく近い怪獣映画の場合は、ちょっとした事でもすぐにウソだとバレてしまいます。かといって、細かい部分まで気を配ろうとすればするほど、手間も時間もお金も掛かりますし、逆に、開き直って「怪獣プロレス」だけを見せたんでは映画として成立しません。そう言う意味では、その辺のバランス加減が怪獣映画にとっての永遠の課題と言えるのかもしれません。

 さて、そこで今回の「ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃」ですが、結論から言うと、非常に楽しる作品でした。前回、監督の金子修介に期待、と書きましたが、まさに期待通りの出来で、久々に観ていて面白いゴジラを観たような気がします。正直言って、ここ何年かのゴジラは(もちろん、いい歳した大人が観ての感想ですが)観ていてもイマイチのめり込めませんでした。そのもっとも大きな理由は、人間側のドラマや怪獣を含めた諸々の設定が、大抵途中で破綻してしまい、どうしてもそこでシラけてしまうからだったのですが、その点今回は、100%とは言えないまでも、少なくとも従来の作品よりは遥かに筋が通っていて、ちゃんと完結もしていました。なんと言っても大きいのは、テーマがハッキリとしていて、作り手がこの映画の中で見せたいモノが分かる作品になっていることです。例としてゴジラについて言うと、今回、ゴジラは人類に対する悪意を持った脅威の存在として描かれているのですが、それを表現するための「怖さの演出」というものが徹底しています。建物の破壊の仕方等もさることながら、シーンの間に、何とか無事に逃げ出せたもののその恐怖にいつまでも震えが止まらない人のカットを入れたりすることで、その恐怖感というものはこちら側にもより強く伝わってきます。こういった、細かい演出や登場人物の描き込み、ディテールへの気配りといったことは、特にここ最近のゴジラシリーズには欠けていた部分で、こういった点でも今回はクォリティが高いと言えると思います。

 まあ、厳しいことを言えば、やっていることは、怪獣の設定等も含めて「平成ガメラシリーズ」とあまり変わらないという見方も出来ますが、それでも、単純にまず「映画として」楽しめる「ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃」は、やはりオススメできると思います。

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