Vol. 49 「アヴァロン」

 前回のこのコーナーで、邦画の魅力についてちょっと書いてみました。ただ、一口に邦画と言っても実際にはいろいろありますし、特に最近では、他の国々との合作という形も増えていて、「邦画の定義」みたいなものがだんだん難しくなってきているのも事実です。いや、むしろ「邦画」とか「洋画」とかいったカテゴライズ自体、あまり意味の無いことになってきているのかもしれません。例えば、今回紹介する「アヴァロン」も、監督を始めとするメインスタッフや制作会社こそ日本人や日本の会社ですが、撮影はポーランドでのロケで行われ、キャストも全員ポーランド人なら、その中で交わされるセリフも当然、全てポーランド語という映画であり、少なくとも画面を観た限りでは洋画にしか見えません。これなどは、まさにカテゴライズが無意味であることの典型的な例と言えるのではないでしょうか?

 ところで、皆さんは「オンラインゲーム」というのをやったことがあるでしょうか? 「オンラインゲーム」とは、文字通りインターネットを介してネット上の見知らぬ人達といっしょに遊ぶことが出来るゲームのことですが、最近はネットへの接続環境が向上したこともあって、プレイヤーの数も日増しに増えているようです。私自身は、残念ながらまだプレイしたことは無いのですが、この「アヴァロン」は、まさにその「オンラインゲーム」が舞台であり、またテーマでもある作品です。

 とある近未来、そこでは若者達が「アヴァロン」と呼ばれる非合法の仮想戦闘ゲームに興じていて、凄腕の女性プレーヤーとして知られるアッシュもそんな中の一人でした。彼女は、ゲーム内のミッションをクリアすることによって得られる報酬で生活していましたが、なぜか決してパーティは組まず、常にソロプレイに徹していました。そんなある日、アッシュの前に「ビショップ」と名乗る謎のプレーヤーが現れます。そして、その後昔の仲間から、現在自分がプレイしているフィールド「クラスA」よりさらにハイレベルな隠しフィールド「スペシャルA」が存在することを聞かされた彼女は、その「スペシャルA」についての情報を調べ始めますが…、といったような内容です。

 この映画を観て、作品全体に漂う退廃的な雰囲気や、「アヴァロン」のプレイによって廃人になってしまう「未帰還者(ロスト)」の設定などから、一見、ゲーム批判をしているように感じる人もいるかもしれません。しかし、決してそうではなく、監督の押井守はゲーム空間をあくまで現実と対比する世界として扱っています。もともと押井監督は、以前からずっと「夢と現実が交錯する世界」をテーマに作品を作り続けてきました。たまたま今回はそれを「仮想(バーチャル)と現実(リアル)が交錯する世界」に求めただけで、「夢」を「ゲーム空間」に置き換えれば、この「アヴァロン」もまた従来の延長線上にある作品であり、安易なゲーム批判が目的ではない事が分かります。もっとも、こんな風に偉そうなことを書いている私自身、まだこの映画のことを100%理解しているわけではないのですが…。

 ただ、これまた、押井作品に共通する問題として、内容が分かりづらいというのがあり、この作品もその点で例外ではありません。特に今回はセリフが全てポーランド語であるため、内容を理解する為には前回のこのコーナーでもちょっと触れた、洋画の弱点の一つでもある「字幕」に頼らなければならず、そういう意味では、初めて観た時はおそらくストーリーを追いかけるので精一杯かもしれません。ちなみに、今回これを書くために改めてDVDで見直してみたのですが、試しにDVDに収録されている吹き替え版をちょっと観てみたところ、予想通りかなり分かりやすくなりました。(もっとも、セリフのみだと、今度は単語の意味が分かり難かったりするので、理想は日本語音声+字幕表示かもしれません(笑))

 

 

 

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