Vol. 48 「台風クラブ」

 突然ですが、皆さんは一年間にどのくらい「邦画」を観ますか?(もちろん、ここで言う「邦画」とは、アニメを除いた、いわゆる実写映画のことです)結構、映画好きと言っている人でも、邦画はほとんど観ないという人が意外と多いようで、その理由を聞いてみると、予算が少なくて安っぽい、画面や雰囲気がなんとなく暗い、話が妙に理屈っぽくて何を言いたいのか分からない、なんていう答えが返ってきたりします。まあ、実際、これらの指摘はそれ程間違ってませんし、事実、私も昔はそう思って邦画を避けていた一人なのですが…。

 そんな私が、一番最初に興味を持った邦画は、大森一樹監督の「すかんぴんウォーク」という作品でした。吉川晃司のデビュー作でもあるこの映画は、当時「うる星やつら2」の併映作品として公開されました。「うる星やつら」を観に行った私は、ハッキリ言って「すかんぴんウォーク」の方はどうでもよかったのですが、逆に何も期待していなかったのが良かったのか、それこそ上に書いた邦画のダメなところに全て当てはまるような作品だったにもかかわらず、意外と楽しめたのを覚えています。まあ、これは、たまたまだったわけですが、その後、スタローンやシュワルツェネッガーのハリウッド産アクション大作全盛時代になり、その手の映画に食傷気味だった私は、次第に邦画に興味を持つようになりました。ちょうどその頃、邦画も転換期を迎えていて、従来の邦画とはちょっと違った感じの作品がいろいろと生まれていた時でもありました。そんな中、このコーナーでも以前取り上げた、中原俊監督の「櫻の園」や「12人の優しい日本人」、さらには林海象監督の「濱マイク」シリーズなどの面白い作品にも出会うことによって、いつの間にか、邦画も意外に面白いじゃん、と思えるようになっていました。

 で、そんな頃に出会った作品の一つが、今回紹介する「台風クラブ」です。先日、惜しくも亡くなった相米慎二監督のこの作品は一部では結構有名で、公開当時は幾つか賞を取ったりもしていますが、内容的にはこれまた上のダメな条件を十分満たしている邦画だったりします。(笑)台風で学校に閉じこめられ、そこで一晩過ごすことになった6人の男女生徒が、台風が近づくに連れて次第にテンションが上がっていき、やがてお祭り騒ぎを始める、というストーリーなのですが、たぶんこうして言葉で説明してもほとんど内容は伝わらないと思います。正直、今回この記事を書くために10年振りくらいにDVDで見直してみましたが、今観てもよく分からないところがあったりしますし、そう言う意味では、おそらくダメな人にとっては全くダメな類の映画だと思いますが、私自身は、それでもなぜか惹かれるところがあって割と好きな作品の一つです。特に主演の工藤夕貴は、今でこそ国際派女優などと言う肩書きで呼ばれていますが、当時はまだデビューしたての頃ということもあり、その演技にはとても素朴な魅力があります。

 ところで、先ほど邦画がダメなところをいろfいろ挙げましたが、その一方で、邦画ならではのメリットというものもそれなりにあったりします。中でも最も大きいと思うのは、画面に字幕が無いこと、そして何より、セリフの意味がそのままストレートに理解できるということです。そして、これはそのまま、感情移入のしやすさにも繋がっています。例えばこの「台風クラブ」も、もしセリフが全て英語だったらさらに難解な映画になっていたでしょうし、逆に、邦画だからこそ楽しめた映画だとも言えるかもしれません。いずれにしても、たまには目先を変えて邦画にも目を向けてみるのも良いかも知れません。

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