Vol. 45 「みんなのいえ」

 早速ですが、今回は三谷幸喜監督の「みんなのいえ」です。三谷幸喜といえば、「古畑任三郎」などを手がける、既に説明の必要も無いほどの売れっ子脚本家ですが、映画監督はこれが2作目となります。ちなみに、監督作品の1作目は、以前このコーナーでも紹介した97年の「ラヂオの時間」でした。その時にも書きましたが、この「ラヂオの時間」は、もともと三谷幸喜の劇団「東京サンシャインボーイズ」の舞台劇だった作品をキャストも一新して映画化したもので、そのため、先に舞台版を観ていた私にとっては、話の展開が分かってることもあってちょっと新鮮味に欠ける部分もありました。そういう意味で、今回は私にとっては三谷幸喜の初めての劇場用オリジナル作品ということで、かなり楽しみにしていました。

 ストーリーは、ひとことで言ってしまえば、田中直樹(ココリコ)扮するシナリオライターの直介が、土地を買ってから家を建てるまでの話です。とは言っても、もちろん三谷脚本の作品ですから一筋縄ではいきません。家のデザイナーと大工をそれぞれ直介の妻、民子の知り合いと父親に頼むのですが、かたやアメリカ帰りでアーティスト指向だけど、現場経験はほとんど無し、かたやこの道一筋、昔ながらの家造りがモットーの職人気質、という二人は、何かにつけてことごとく意見が対立します。しかも直介は二人の間でオロオロするだけでまるで頼りにならない。そこに、直介の母親が出てきて風水のアドバイスをし始めるから話はさらにややこしくなり…、といった感じです。

 前作同様、今回もキャスティングが面白く、しかも芸達者な人達ばかりを集めているので、彼らの演技を観ているだけでも楽しめます。もちろん、主演の唐沢寿明と田中邦衛は言わずもがななのですが、今回、特に掘り出し物だと思ったのは、民子役の八木亜希子の演技です。ご存知のように、彼女は元フジテレビのアナウンサーで、現在はフリーになっているものの演技は今回が初めてなのですが、それにしては自然過ぎるというか、少なくとも素人としてはかなり上出来だったと思います。逆に直介役の田中直樹の方は、変ではないけれど何となくコントの延長線のような感じを受けてしまいました。もっとも、この辺は観る側のイメージの問題もあるかもしれませんが…。いずれにしても、メインキャストだけでなく、脇役やセリフも無く1カットだけ映るような人に至るまで、いろいろな有名人が意外なところで出てくるので、それらを捜しながら観るのも楽しみの一つだと思います。(個人的には、民子の姉、実栄子役の清水ミチコに爆笑!(笑))

 ただ、純粋に映画として観た場合には、特に伏線らしい伏線も無く、淡々と話が進んでいくため、どうしてもストーリー的にやや弱い印象を受けてしまうのは否めません。途中に挿入されるエピソードも一つ一つは面白いのですが、それらがあまり有機的に繋がってなくて、ちょっと散漫な感じがします。出来れば、もう少し「家を建てる」というイベントに対して、映画的なカタルシスというか、ラストに向かっての盛り上がりみたいなものが欲しかったように思うのですが…。テーマのアイデアは面白いだけに、この辺は何とも惜しい気がしました。そういう意味では、ちょっと上手い役者達の演技に助けられたかな?という感じの作品でした。

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