Vol. 44 「メトロポリス」

 さて、昨年はロボット元年などとも言われ、それ以前のAIBOに代表されるペット型ロボットに加え、ホンダのASIMOやソニーが開発したロボットのような、2足歩行が可能なヒト型ロボットが登場した年でした。それ以外にもいろいろなロボットが現在も開発されていて、いよいよアトムが現実になる日も近いか?などとも言われています。また、そんな時代を反映してか、「A.I.」のようなロボットと人間との関係をテーマにした映画なども公開されたりしています。そんな中、そのアトムを生み出し、ロボットと人間との関係についていち早く注目したマンガ家、手塚治虫の原作をアニメ化した作品が先日公開されました。それが、今回紹介する「メトロポリス」です。

 とある場所にある、巨大都市国家メトロポリス。そこの実力者であるレッド公は、超高層ビル「ジグラット」を完成させます。しかし、そのビルには実は大いなる野望と秘密が隠されており、その鍵となるのが、彼がロートン博士を使って密かに作らせていたロボット、ティマでした。一方、そのロートン博士を臓器売買の疑いで追っていた、探偵の伴俊作とその助手ケンイチは、捜査中ある事件に巻き込まれ離ればなれになってしまいます。その際、ケンイチは偶然ティマと出会い、その後、二人は行動を共にするようになりますが、それと同時に謎の組織にも追われるようになり…、といったストーリーです。上で、手塚治虫原作と書きましたが、正確には1949年に描かれた同名のマンガから、「メトロポリス」というタイトルと基本設定だけを残し、それを監督のりんたろうと脚本の大友克洋が現代の作品として再構築したもので、そういう意味では半分オリジナルとも言えます。

 私がこの作品で一番気に入ったのは、この物語の舞台であるメトロポリスの設定でした。「ジグラット」を初めとした高層ビル群の圧倒的なスケール感と画面の奥の方まで精密に描き込まれた背景、そして整然とした地上部と対をなす地下居住区の雑然とした様子など、ここに登場するメトロポリスには、人が住んでいることが感じられるようなそんな空気があります。高層ビルが建ち並ぶこの超近代的な巨大都市は、まさに「手塚治虫的空想世界」そのものという感じですが、それをCGを含めた緻密な作画で表現することによって、そこにさらに「大友克洋的リアリティ」を加えることに成功しています。

 特にCGに関しては、今やアニメにおいてもごく当たり前の技術であり、最近ではどんな作品でも利用されていますが、この「メトロポリス」でも全体の約8割のシーンにCGやデジタル処理が使われていて、しかも、それらがセルアニメの部分と違和感無く融合しています。

 また、映像だけでなく音楽に関してもかなり凝っていて、ストーリーのポイントとなるシーンでは、一見ミスマッチとも思えるディキシーランド・ジャズが使われています。中でも物語のクライマックスでかかる曲は、その意外性も含めてとてもインパクトがありました。

 ただ、難点を挙げるとすれば、その画面の描き込みの凄さに比べると、ちょっとストーリーが弱いというか、食い足りないような気がします。キャラクター自体は悪くないですし、舞台設定も個人的にはとても好きなだけにこの点は残念です。まあ、それでも、もちろんアニメ映画としての完成度は高いですし、手塚ファン以外の人も一見の価値はある作品だと思います。

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