Vol. 42 「マルコビッチの穴」

 「森の里クリップボード」が、ECのHPへ引っ越したりしたこともあって、しばらく、このコーナーもお休みしていましたが、今月から、またちょっとずつ書いていこうと思いますので、今後ともよろしくお願いします。

 さて、今月は、最近ビデオでも発売された話題作、「マルコビッチの穴」です。もともとこの手のちょっと変わった映画が好きな私としては、その奇抜なタイトルと設定を聞いただけでかなり興味を持っていたのですが、先に観に行った友人達が、みんな声をそろえて「面白い!」というので、私も公開当時に劇場で観てきました。

 既にあちこちで話題になっているので、ご存知の方も多いと思いますが、ストーリーは、才能はあるがまるで売れない人形使いのクレイグが、生活のためにとある会社に就職するところから始まります。ビルの「7と1/2階」にある会社でファイル整理の仕事に就いた彼は、ある日オフィスに小さな穴が開いていることに気付きます。おそるおそるその穴に入ってみた彼はビックリ!なんとそれは、入ると15分間だけ、映画俳優のジョン・マルコビッチになることが出来る穴だったのです。と、書いてみても、ほとんどの人が、「7と1/2階にあるオフィスって何?」とか、「ジョン・マルコビッチになる、ってどういうこと?」等と疑問がいくつも浮かんでくるでしょう。ひょっとしたら、「そもそも、ジョン・マルコビッチって誰?」っていう人もいるかもしれません。(ちなみに、ジョン・マルコビッチは、「コン・エアー」、「仮面の男」、「ジャンヌ・ダルク」等々、数多くの映画に出演している、実在の俳優です)そんなわけで、私も最初は設定の面白さで見せるような不条理コメディかと思っていたのですが、見終わったら、とにかく予想以上面白く、しかも展開もまるで予想外だったので、ハッキリ言ってビックリしました。

 実際、冒頭からしばらくは、ホントにシュールというか、ふざけた(もちろん良い意味で)映画なのですが、本題の「マルコビッチの穴」が登場してからは、ストーリー自体はややシリアスになってきて、途中からは何となくドロドロした愛憎劇のようになってきます。そして、最後はいつの間にかいろいろと考えさせられてしまいました。伏線の張り方も巧みですし、なにより、これだけムチャな話なのに、脚本が破綻してないのがスゴイ!設定の一つ一つはかなり奇抜で凝っているにも関わらず、全体を通して観るとちゃんとそれらを消化した上で起承転結のあるドラマとして成り立っているのです。コメディであり、一風変わったラブストーリーであり、ちょっと哲学的な(?)部分もあって、さらにSFの匂いまでするという、ある意味贅沢な作品でもあります。また、この作品には、主演のキャメロン・ディアスやジョン・マルコビッチ以外にも沢山の有名俳優達がカメオ出演(画面の片隅に1シーンだけ映るような出演)しているので、映画ファンの人は、それらを探しながら見るのも楽しいかもしれません。

 強いて難点を挙げれば、冒頭からの独特のノリ(特に笑わせる部分など)にちょっとクセがあるかな、という気がしますが、逆にそこさえクリアできれば、あとは例えジョン・マルコビッチのことをよく知らなくても十分楽しめます。(もちろん、知っていればさらに楽しめることは言うまでもありません)いずれにしても、一見の価値がある映画です。

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