Vol. 37 「どら平太」

 昨年の「スター・ウォーズ -エピソード1-」や「御法度」、さらに先月このコーナーで取り上げた「スリーピー・ホロウ」などを観たこともあって、最近、「やっぱり、チャンバラ(殺陣)ってカッコ良いなぁ」と思うようになりました。ちょうどそこへ、黒澤明、木下恵介、市川崑、小林正樹という、日本を代表する4人の巨匠が共同で脚本を書いたという、幻の作品が公開されると聞いたので早速観てきました。それが、今回の「どら平太」です。

 よく映画等で、普段はうだつの上がらないダメなヤツだったり、いい加減で遊び呆けているように見えて、実はメチャクチャ頭がキレたり、腕っぷしが強かったりするヒーローというのがいて、私も大好きなんですが、この「どら平太」の主人公、望月小平太もまさにそういった人物です。舞台は、江戸時代のとある小藩。この藩には壕外(ほりそと)と呼ばれる無法地帯があって、そこでは密輸や売春、賭博等が横行しており、その利権は全て3人の親分が牛耳っていました。しかも、親分達は藩の城代家老とも結託していて、家老達も不正を黙認することによって私腹を肥やしている、という腐敗ぶり。そんな状況を一掃するために新任の町奉行として派遣されたのが、望月小平太です。しかし、彼は、別名「どら平太」とも言われるほどの遊び好きで、町奉行として着任してからも奉行所に赴くどころか、本来、城中の者は立入禁止であるその壕外で、別人に成りすましながら一緒になって遊びまくっていました。そんな様子を見て彼の友人達も心配しますが、当の本人は「任せておけ!」と言うばかりで気にも留めません。というのも、彼はそうやって遊び回りながら、同時に壕外の調査を進めていたのです。そうこうしているうちに、彼の存在に例の親分達が気付き始め…、といったストーリーです。とにかく、このどら平太のキャラクターがとても魅力的で、一見遊び人のように見えて、実はとても頭が良く、しかも、ひとたび剣を振れば天下無敵、雑魚などは腕一本で倒してしまうほどの強さです。もちろん遊び人としても一流で、女達にはモテまくり、その上ギャンブルもめっぽう強いというどら平太は、まさにヒーローそのものです。

 ところで、この「どら平太」という作品は、一言でいえばいわゆる世直しモノなのですが、ただ、普通のそれとちょっと違うのは、不正を正す主人公が一般庶民やアウトローではなく、同じ体制派の人物だという点で、そのことがさらに作品の痛快さを増しています。(この辺は、「遠山の金さん」や「水戸黄門」に通じるモノがあります)上にも書いた通り、もともと、この作品の脚本は「四騎の会」という、黒澤明、木下恵介、市川崑、小林正樹の4人が集まって作った製作プロダクションによって書かれたものです。当初は演出も4人が分担して行う予定だったそうですが、結局、映画化は実現されず、それから30年経った昨年、ようやく市川崑によって映像化されました。ストーリーが単純で明快な上にコメディ的な要素も随所にあって、娯楽作品としてはまさに申し分ありません。この辺は、さすが名匠が手がけた脚本という気がします。確かに出ている俳優陣もほとんどがベテランと言われる人ばかりですし、実際、私が観に行った時の客層も私が一番下?と思えるほど高かったのですが、「中高年向け」とするには勿体ないくらい面白いので、時代劇が嫌いでなければ、ぜひ観てみて下さい。

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