Vol. 34 「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」

 今回は007シリーズの第19作品目、「007/ワールド・イズ・ノット・イナフ」です。もうこのコーナーで何度も何度も書いているように、私はこのシリーズの大ファンなので、もちろん、今回のこの作品も公開されるのを心待ちにしていました。ところで、ご存知の通り、洋画は基本的に常に全世界で同時に公開されるわけではなく、世界各国によって公開時期がまちまちなのが普通です。実際、この「ワールド・イズ・ノット・イナフ」も欧米では既に昨年の11月にクリスマス映画として公開され、特にアメリカでは当初の予想を遙かに超える大ヒットとなって、当時話題になっていた「ポケットモンスター」の劇場版を抜いて初登場で全米興行収入の第1位になりました。しかし、どういうわけか日本では、前作の「トゥモロー・ネバー・ダイ」の時と同様に2ヶ月以上も遅れて公開されることになり、昔からのファンとしては「007」のランクが下がってしまったようで、なんとなく寂しい思いをしていました。(もっとも、実際に封切られてみると、アメリカでヒットしたことが逆に宣伝効果になったのか、日本でも結構入っているようなので、少し安心しましたが…。(笑))

 今回のストーリーは、ボンドがある組織から石油王であるキング卿の大金を取り戻すところから始まります。しかし、キング卿は巧妙な手口によって何者かによって暗殺され、ボンドはキング卿の一人娘であるエレクトラのボディーガードをすることになります。彼女を護衛しつつキング卿を暗殺した人物の正体を突き止めようとするボンドでしたが、犯人を追っているうちに話は意外な展開をし始めて…、といった感じの内容です。もともと、007シリーズの話の構造というのは、世界規模の犯罪を企む組織に対しボンドがそれを阻止すべく立ち向かうという、至ってシンプルなもので、敵の正体も初めから分かっているのが普通です。ところが、今回は誰が味方で誰が敵なのか最後の方まで分からないようになっていて、その分ストーリー展開もいつもと違ってちょっと複雑になっています。その為、場合によっては、一度観ただけでは話の細かい部分まで理解するのが難しいかもしれません。ただ、そうは言っても、アクションシーンなどの見せ場における「007らしさ」は今回も健在なので、その点は安心して楽しめます。特に冒頭のロンドンのテムズ川でのボートチェイスは圧巻で、普通の映画ならクライマックスのような派手なシーンがのっけから展開します。

 そんなわけで、今回の「ワールド・イズ・ノット・イナフ」は、シリーズの「お約束」の部分は残しつつ、新しい試みにもいろいろと挑戦しています。例えば、今回初登場した「R」の存在もその一つでしょう。「R」は、MI6(ボンドが所属する、英国諜報部)の秘密兵器の開発担当である「Q」の助手ということですが、「Q」とはまたひと味違ったちょっととぼけたキャラで、今後のシリーズにもレギュラーとして登場しそうな感じです。ただ、一つだけ残念なのは、この「Q」を演じていたデズモンド・リューウェリンが、昨年末に交通事故で亡くなってしまったことです。彼は、1作目と8作目を除く全てのシリーズ作品に出演しており、ファンにとっては彼の発明する秘密兵器同様、007シリーズに無くてはならない存在でした。今後の作品での「R」とのコンビも期待されただけに、いっそう彼の死が非常に惜しまれます。

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