Vol. 33 「御法度」

 2000年最初の作品は、大島渚13年振りの監督作品であり、ビートたけしやあの松田優作の息子である松田龍平の出演等が話題の「御法度」です。私自身は、大島渚監督作品は83年の「戦場のメリークリスマス」しか観たことがありませんでしたが、坂本龍一が音楽を担当していることと出演している役者が皆個性的であること、そしてなにより「戦メリ」が私にとっては割と面白かったこともあって、今回の「御法度」も観に行くことにしました。内容は、幕末の新選組にある日入隊してきた、加納惣三郎という美少年剣士が、その女性のような魅力によって新選組の隊士達を次々と惑わしていく、といった話です。もっとも、この作品の場合、ストーリーよりもむしろ作品全体に漂う「妖しい」雰囲気の方が印象的で、そういう意味では、ちょっと不思議な感じの映画でもあります。

 ところで、いわゆる面白い映画には2つのタイプがあると思います。1つは優れた脚本や演出で見せる映画、そして、もう1つは役者の魅力で見せる映画です。この分類でいけば「御法度」は間違いなく後者と言えるでしょう。もちろん、これは決して脚本や演出が悪いという意味ではありませんし、事実、すばらしい演出も随所に見られます。しかし、それ以上に役者の持つパワーというかオーラというか、そういったモノが強烈な作品なのです。ざっとキャスティングを挙げてみても、主演の松田龍平やビートたけしを初めとして、浅野忠信、武田真治、坂上二郎、田口トモロヲ、トミーズ雅、果ては映画監督の崔洋一に至るまで、とにかく「よくぞこれだけ集めた」と言いたくなるほど豪華で個性的な俳優が揃っています。その中でも特にビートたけしの存在感と迫力はさすがで、今回はいつもと違ってどちらかというと「静」のキャラクターなのですが、そういった抑えた演技でもやはり上手いところを見せていました。また、大島監督が自ら「ひと目見て直感的に決めた」という、加納惣三郎役の松田龍平の存在もこの映画にとっては非常に大きいです。そのルックスは、まさしく隊士達を惑わしていく惣三郎の役にピッタリで、実際、彼がいたからこそこの映画が撮れたとも言えるくらいです。他にもつかみ所の無い感じが良い沖田総司役の武田真治や坂上二郎の渋い演技など、どの配役も見事にハマっています。キャスティング以外にも、冒頭からラストまでほぼ全編に出てくる殺陣シーンはどれもとてもスピーディでカッコ良く、ドルビーデジタルで鳴らされる効果音と相まって非常に迫力がありますし、また、今回、この作品のために新たにデザインされたオリジナルの黒い新選組の隊服なども見どころの一つと言えると思います。

 強いて気になる点を挙げるとすれば、やはり、これがデビュー作になる松田龍平の演技が、多少心許ないような気がすることでしょうか。ただ、いくら新人とは言え、大島渚ほどの監督が本当に下手な芝居にそのままOKを出すとも思えないですし、むしろ演出の一つとも考えられるのでこれに関しては何とも言えません。いずれにしても、観る人を選ぶタイプの映画であることは確かです。私自身は結構楽しめたのですが、例えばハリウッドの大作映画のような明快なストーリー展開が好きな人にはあまり合わないかもしれません。(ちなみに、私は衆道の気は無いので、念のため…(笑))

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