Vol. 30 「新幹線大爆破」

 先日、ニュースで、新幹線の0系車両が東海道新幹線からついに姿を消すことになったと言っていました。私自身は特に鉄道ファンというわけではないですし、0系自体にそれほど思い入れがあるわけでもないのですが、それでも子供の頃に見た、あの愛嬌のある丸い鼻の(でも、当時としては最先端だった)デザインは、やはり強く印象に残っています。今月は、そんな0系新幹線が出てくる映画、「新幹線大爆破」です。これは1975年の東映映画で、たまたま面白い、という評判を聞いたこともあって、機会があればぜひ観てみたいと思っていた作品でした。

 と言ってもほとんどの人がご存知無いでしょうから、簡単に話の内容を説明すると、ある日、東京発博多行きの「ひかり109号」に爆弾を仕掛けたという脅迫電話が入ります。この爆弾は、新幹線が時速80kmになると起爆装置が作動し、減速して再び80km以下になると爆発するというものです。と、ここまで読んで、なんだ、それってまんま「スピード」じゃん!と思われる方も多いと思います。いや、事実その通りなのですが、もちろん、こちらの方が制作されたのは遥かに早いわけで、実は、「スピード」はこれのパクり、という話もよく聞きます。もっとも、私自身は今まで「スピード」を一度も見たことが無かったので、どうせ観るなら、ついでに「スピード」も借りてきて、どれくらい似ているのか調べてみよう思い、今回両方借りてきて比べてみることにしました。

 しかし、結論としては、思っていたほど似ていなくて、むしろそれ以上に日本とアメリカ(で制作される作品)の違いを改めて認識しました。まず、もっとも大きな違いは、犯人の扱い方です。冒頭から犯人が誰なのか分かってしまう点はどちらも同じですが、「スピード」の犯人が、目的のためなら殺人も平気で行う「イカレサイコ野郎」で、またその素性や動機についても劇中ではほとんど語られないのに対して、「新幹線…」の方は(ネタバレになるので詳しくは書きませんが)「スピード」とはほとんど正反対といっても良いような性格ですし、キャラクターの設定や犯行動機についても時間をかけて丁寧に描かれています。その結果、観る側の意識も「スピード」は100%刑事の方へ感情移入するように作られていて、犯人に対しては全く同情できないませんが、「新幹線…」は、犯人を主人公にして作られていることもあって、警察や国鉄側だけでなく犯人の方へもある程度感情移入できるようになっています。また、人質となる人々の反応も正反対で、13人と1500人の違いはあるにしても、一度は動揺するものの最後には協力的になっていく「スピード」に対して、なにかある度にすぐにパニックになったり、エゴがむき出しになってしまう「新幹線…」は、なんとなくそのまま日本人とアメリカ人の気質の違いまで見ているようでした。(もっとも、実際に事件が起きた場合の反応としては、後者の方が正しいような気もしますが…)

 映画そのものは、高倉健や宇津井健を初めとした有名俳優が大挙出演していて、キャスティングにはえらく金がかかっていますが、その反面、(当時の国鉄が撮影に対して協力的でなかったこともあって)模型を使った新幹線の走行シーンは正直言ってちょっと安っぽいです。とにかく、良い意味でも悪い意味でも、思いっきり日本映画しているので、邦画の独特のノリがダメな人にははっきりいってお勧めできませんが、逆にあのころの刑事ドラマ等が好きな人には当時の時代背景なども見られてそれなりに楽しめるのではないでしょうか?

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