Vol. 28 「となりの山田くん」

 今回は久々のアニメ作品「ホーホケキョ となりの山田くん」です。ご存知のように、この作品は、いしいひさいちが朝日新聞の朝刊で連載中の4コママンガをスタジオジブリの高畑勲監督がアニメ化したものです。スタジオジブリといえば、「もののけ姫」を挙げるまでもなく、今や日本が世界に誇るアニメスタジオですが、その一方で、ジブリ=宮崎駿、というイメージも結構強いのではないでしょうか?しかし、何を隠そう、実はこの高畑監督もジブリの中心人物の一人なのです。主な作品を挙げると、ジブリ制作のものだけでも「火垂るの墓」、「おもひでぽろぽろ」、「平成狸合戦ぽんぽこ」などがあります。

 高畑監督作品の特徴は、一言でいうと常にテーマに対して真正面から取り組み、表現としてはあくまで現実感を大切にする、という点で、個人的には非常に生真面目なイメージがあります。それは、宮崎監督の作品と比べると特に顕著です。一見、見た目の絵柄が似ていることもあって同じように見えますが、宮崎監督が割と「自然と人間の関わり」といったテーマを扱うことが多いのに対して、高畑監督の方はもっと人間そのものを扱うことが多いです。そんな高畑監督の新作が、いきなり、いしいひさいちの4コママンガのアニメ化ですから、最初聞いた時は、はっきり言ってかなり違和感を覚えました。と同時に、普通のマンガと違い、原作のイメージを自分なりに膨らませたり、大胆にアレンジしたりする余地が余り無い中で、一体どんなモノを見せてくれるのだろうという期待感もありました。

 で、観た感想ですが、一言で言うと「すごく贅沢な4コママンガ」という感じです。実際、チープ(もちろん、良い意味で)なのは、それこそ絵柄だけで、それ以外のところにはお金が掛かりまくってます。具体的に言うと、例えば、動画はフルデジタルで処理されていてセル画は1枚も使っていません。また、サウンドにも非常に凝っていて、サントラの作曲はこれが初めてとなる矢野顕子の音楽は、一歩間違えばミスマッチになってしまうくらいゴージャスですし、劇中のBGMとして使われているマーラー等の曲は、わざわざプラハまで行って向こうのオーケストラに演奏させて録音したものだそうです。声優には益岡徹、富田靖子、中村玉緒、等々有名俳優を起用し、効果音に関しても、ちょっとしたキャラの動きや街の中の細かい音にまでとても気を使っています。そして、それらの音は全てドルビーデジタル録音です。

 しかし、そうは言っても、やっぱり「山田くん」は「山田くん」な訳で…。4コママンガ(しかも、どっちかと言うとホノボノ系の)をアニメ化したモノを100分近くやるのは、はっきり言ってちょっと長過ぎる様な気もします。もちろん、それなりにメリハリを付けたりはしていますが、それでも映画全体として見ると単なる細かいエピソードの羅列という感じで、平坦な印象は否めません。見る側を引っ張るモノに欠けるので、場合によっては途中で飽きちゃう人もいるのではないでしょうか。個々のエピソードは、(原作を読んだことが無いというのもありますが)それなりに楽しめますし、決して失敗作というわけではないのですが、それだけに逆にちょっと惜しい感じです。

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