Vol. 25 「ひみつの花園」

 よく、普段はおとなしいのに目標を与えられると突然パワフルになったり、自分の好きな事のためならどんなことでも出来てしまう人というのがいます。どちらかというと優柔不断な私としては、なんとなく、うらやましく感じられてしまうのですが、今回の「ひみつの花園」もそんな女の子の話です。

 主人公、鈴木咲子は、普段はボケーっとしていて何も考えて無いように見えますが、実は就職試験の面接で「趣味はお金を数えること」と答えるくらいお金が大好きで、デートの時には「おごってくれるなら、その分お金ちょうだい」とまで言ってしまう程。こんな性格だから色恋沙汰とも無縁な彼女は、「趣味が生かせるから」という理由で入った銀行でひたすらお金を数える毎日です。しかし、そんな日々もいい加減飽きてきた頃、勤めている銀行に突然強盗が押し入り、人質として咲子も一緒に連れ去られてしまいます。結局、犯人はクルマで逃走中に誤って崖から転落、咲子だけが無事助かるのですが、しばらくしてから、その時一緒にクルマから投げ出された5億円の現金の事を思い出します。早速、拾いに行こうとしますが、そこは富士の青木ヶ原樹海のど真ん中で、素人が簡単に拾いに行けるような場所ではない上に、落ちている場所そのものも記憶だけが頼りという状態では、例えその場所を知っているのが自分だけだとしてもどうしようもありません。と、普通ならここで諦めてしまうところですが、そこはお金が何より大好きな咲子、何がなんでもその5億円を手に入れるために、ついに一大計画を決行します。その計画とは…、といった感じのストーリーです。

 とにかく、まるでマンガのようなノリのキャラクターと話の展開が面白いです。話自体は一本道ですし、伏線らしい伏線も無ければ微妙な人間関係の描写等もほとんど無いので、物語の「厚み」という部分ではちょっと薄い印象があるかも知れません。しかし、その分肩に力を入れずに気軽に楽しめますし、何よりポジティブに突っ走る映画は観ていて気持ちが良いです。もちろん、この映画の見どころ(?)も、文字通り「金のためなら何でもやる」咲子のキャラクターにつきます。この咲子は西田尚美が演じていますが、まさに「体当たり演技」といった感じで、走ったり、落ちたり、流されたりして、体中泥だらけになりながら頑張っています。また、一方では普段の(?)咲子の表情を作るために実際にマンガを参考にしたりして研究したそうで、その成果による独特の「脱力顔」は何とも言えません。(笑) 年末に再度復活する「ゴジラ」の新作にも出演するみたいですが、個人的にこれから注目したい女優の一人です。

 ちなみに、監督の矢口史靖はPFF(ぴあフィルムフェスティバル)という、雑誌「ぴあ」が主催するインディーズ系の映画を中心としたコンテストの出身で、90年にはグランプリも受賞している、まだ32歳の若手監督です。もともと、アマチュア時代からコメディ作品を主に撮ってきたそうで、チープさを逆に利用した演出などは、その頃の経験を上手く利用しているという気がします。彼の作品を観たのは今回が初めてですが、多少、惜しいなぁと感じる部分はあるものの、全体としてはかなり楽しめたので、ぜひ、次回作もチェックしてみようと思います。

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