Vol. 22 「ブラック・マスク」

 先月紹介した「CUBE」は、大森にある「キネカ大森」という劇場で観たのですが、ここは通常のロードショウ作品以外にもここでしか観られない作品の上映や独自の企画等を積極的に行っていて、特にアジア圏の作品の紹介に力を入れているみたいです。今回の「ブラック・マスク」もそういった作品の中の一つで、前回の「CUBE」の時にたまたま予告編を観て、なんとなく面白そうだなぁと思ったので、(半ば衝動的に)再び「キネカ大森」に行って観てきました。この「ブラック・マスク」は96年の香港映画で、制作/脚本が「男たちの挽歌」や「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」で有名なツイ・ハーク、主演は「リーサル・ウェポン4」にも出ていたジェット・リー、監督は、現在、常盤貴子主演の「月へ、星たちへ」を制作中のダニエル・リーという、香港映画はほとんど観ない私でも名前だけは聞いたことがあるような人が多数関わっている作品です。もちろん、香港映画ファンはその辺は分かっているらしく、(単館ロードショウで、劇場自体も82席と小さいところでしたが)平日の夜にも関わらず座席はかなり埋まっていました。

 話の内容は単純明快で、その名の通り、黒いマスクをしたヒーローが悪者相手に大活躍するという、痛快アクション活劇です。もう少し詳しく説明すると、かつて某国の極秘プロジェクトによって改造手術と洗脳を受け究極の戦士に仕立て上げられたものの、ただ一人その研究所を脱出して、今は過去を隠しつつ図書館員として平凡に暮らしていた男が、ある事件をきっかけに謎のヒーロー「ブラック・マスク」となって、友人の刑事とともに悪の組織に戦いを挑む、という、要するに、「バット・マン」や「仮面ライダー」みたいな話です。脚本のツイ・ハーク自身、子供の頃から特撮映画が好きだったそうなので、その辺りを意識して制作しているのは明らかなようですが、とはいえストーリー自体はちゃんと作られているので、それでも結構楽しめます。

 香港のヒーロー映画ですから、当然、見どころはアクションシーンになるわけですが、これに関してはもう、とにかく「カッコいい」の一言です。いわゆる香港アクションのスピードやメリハリのあるリズム、独特の間などが充分楽しめます。しかも、主演のジェット・リーは、もともと中国武術大会に11歳で優勝する程の武術の達人だそうで、その身のこなしは本当に見事です。こういったカンフーアクションの流れるような一連の動きには、最後の「決め」のポーズも含め、日本の「チャンバラ」と同じような「型」があるように思います。これはもちろん、元々の武術の「型」が発展していって、現在のようなアクション映画での動きになったのだと思いますが、そこに至るまでにおそらくそれなりの歴史があることを考えると、日本人がいくら真似をしようと思ってもそう簡単にはあの動きは出来ないような気がします。それともう一つ、私が香港映画を観ていつも感心するのは、そのアクションの中にその場にある小道具を非常に上手く取り入れていることです。例えば、イス一つとっても、それを武器にしたり楯にしたりしながら動きを華麗に展開していくところは、観ていてとても楽しいです。と、同時に「やっぱり、この手のアクション映画は、香港にはかなわないなぁ」と思ってしまうのです。

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