Vol. 21 「CUBE」

 既に何度も書いていますが、私は映画は単純に楽しい作品の方が好きで、感動モノやホラーはあまり観ません。そういう意味では、この「CUBE」はどちらかというと苦手な部類の作品です。にもかかわらず、わざわざ観に行く気になったのは、雑誌等での紹介に書いてあった作品の設定に興味を持ったからでした。その設定というのは、互いに顔も知らない男女6人が理由も分からずいきなり立方体の部屋に閉じこめられる、というものです。その部屋は各面にそれぞれ扉がついていて、そこから隣の部屋に行くことが出来るのですが、実はその隣の部屋も全く同じ形状をしていて、もし入る部屋をまちがえると仕掛けてある殺人トラップによって入った者は殺されてしまいます。6人はその恐ろしくも不可思議な建物の謎を解きながら、そこからの脱出を図るというのがストーリーです。こういった話の場合、そこに閉じこめられた人間同士の対立や葛藤というものも作品の重要なテーマの一つになります。ここで、もし脚本が三谷幸喜なら得意のシチュエーションコメディに面白おかしく仕立てるところですが、同じ状況設定でも、別の監督が撮ると見事なサスペンス・スリラーになってしまう辺りが、映画の楽しいところです。で、観終わった後の感想なのですが、はっきり言って非常に面白いです。脚本も良くできていますし、その見せ方も上手く、さすがに賞を取ったり、単館ロードショーながら異例のロングランを続けるだけの事はあるといった感じでした。

 とにかく、まず冒頭の「つかみ」がとても上手いです。これがあるだけで、それ以降の恐怖感が全然違うものになります。例えば、ひと口に恐怖と言ってもさまざまな種類がありますが、この映画における恐怖とは、一言で言えば、一つ間違えれば確実に「死」が待っているということからくる緊張感です。そして、その緊張感を増幅するのに、前述の「つかみ」がとても有効に使われているわけです。(ただ、その内容についてはここでは伏せておきます)それに加えて、狭いキューブの中でのドラマであるということ、さらに自分自身も映画館の中にいるということから来る閉塞感(実際、上映している映画館自体も小さくて狭かったのです)が、さらに恐怖を煽ります。

 また、この映画のもう一つの特徴に、その「ゲーム性」があります。もちろん、脱出の為の謎解き等も確かにゲーム的ではあるのですが、ここで言っているのはそれとは別の、作品全体の構造や6人のキャラクターの設定等についてです。TVゲームやパソコンゲームが好きな人ならご存知だと思いますが、数人の男女がグループ(パーティ)を組んで迷宮からの脱出を図るというこの映画の構成は、いわゆるダンジョンRPGと全く同じですし、その6人のキャラクターもRPGに出てくるそれにかなり近いです。これは、おそらく監督が意図的にやっているのだと思いますが、なかなか面白いと思いました。

 脱出方法のアイデアもどこかで見たようなありがちなものでは無いですし、キューブのシュールなデザインから無機質な音楽と効果音、結末の読めない展開に至るまで、全てが非常に細かく計算されている点も気に入りました。この記事が読まれる頃には既に公開が終わっているかも知れませんが、もしビデオ等で観る機会があれば、ぜひオススメしたい作品です。

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