Vol. 20 「HANA-BI」

 賞を取ったこともさることながら、やはり「北野作品」の新作だからということで「HANA-BI」は劇場公開時から観たいと思っていた作品でした。しかし、なかなか時間が取れなかったりして、結局、劇場では観れず、今回ビデオでやっと観ることが出来ました。ストーリーそのものは結構シンプルなのであまり多くは触れませんが、内容は、たけし演じる西という刑事が不治の病で入院中の妻を見舞っている最中、同僚が犯人に撃たれて半身不随になってしまい、責任を感じた西はある決心をして…、といった感じの話です。一応、雑誌等で読んだりして映画の内容や観た人の反応はそれなりに知っていたので、作品を観る前はなんとなく(私の苦手な)感動モノの話なのかなぁという不安がありましたが、思っていたほど湿っぽい話ではなくて安心しました。むしろ、観終わった後の感じは「キッズ・リターン」よりも良かったです。

 ところで、以前その「キッズ・リターン」の時にもちょっと触れましたが、北野作品には、私のような素人が観ても明らかに分かるようなはっきりとした特徴が幾つかあります。例えば、画面の絵画的な美しさもその一つで、単に映画としてだけでなく、一枚の絵として見てもちゃんと考えられて撮られています。特に今回は、欧米で「キタノ・ブルー」とも評された「青」が非常に効果的に使われていて、印象的なカットには必ず画面の一部、もしくは全体に「青」が存在しています。さらに、今回の「HANA-BI」では、ところどころにたけし自身が描いた絵画が挿入されていて、そのどことなくシュールな感じのする絵からもその絵画的センスが感じられます。

 また、もう一つの特徴として、「徹底した省略」による演出方法が挙げられます。毎回音楽を担当している久石譲は、北野作品を評して「引き算の映画」と言ったそうですが、まさにその通りで、必要以上のセリフや説明の為のカット、画面を盛り上げる過剰な音楽といったものは徹底的に削られています。加えて、シーンの時系列を逆転させたり突然伏線を張ったりするので、集中して観ていないと話のつながりが分からなくなってしまうこともあります。それ故に「たけしの映画は分かりにくい」と言われることも多いようですが、逆にこれこそが他の監督との大きな違いであり、北野作品の最大の面白さだと私は思います。「HANA-BI」に関して言えば、カット割りやその繋ぎ方も非常に凝っていて、ストーリー自体は淡々と進んでいくものの、ところどころにインパクト(それは、銃声だったり、たけし自身が描いた絵だったり、西の妻のセリフだったりしますが)を与えることによって画面の緊張感は常に保たれています。

 他の作品と同様、この作品も血を流したり死んだりといったシーンは多いですし、ストーリーも確かに悲しい話ではあるのですが、かと言って決してネガティブな映画ではなく、北野作品独特の乾いた演出もあっていわゆる「悲劇」とは違った感じを受ける作品です。北野作品というと、なんとなく暴力的で殺伐としたイメージがあるかも知れません。しかし、にも関わらず内外でこれだけの評価を得ているのは、その裏に人間の悲しさや優しさをきちんと描いているからだと思います。今回のこの「HANA-BI」は、それがもっとも良く現れている作品だと改めて感じました。

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