Vol. 2 「キッズ・リターン」

 今年の夏は「スター・ウォーズ - 特別編 -」やジュラシックパークの続編の「ロスト・ワールド」、さらに宮崎駿の新作「もののけ姫」や先月紹介した「エヴァ」の完結編(の続き)等々、面白そうな作品が揃っていて非常に楽しみなのですが、そういう意味では今月は(私にとっては)逆にちょっと谷間の月でした。そこで、今回は旧作(といっても昨年の作品ですが)の「キッズ・リターン」(北野武監督)を取り上げたいと思います。

 私は、北野武の作品を観るのは、「ソナチネ」、「みんな〜やってるか!」に次いで今回で3作目なのですが、それまで観た2作のうち「みんな…」の方はともかく(まあ、あれはあれで良いと思いますが)「ソナチネ」は個人的に結構気に入ってました。また、今回の「キッズ・リターン」は、昨年幾つか賞を取ったりして割と評判も良かったので、それなりに期待しながら観たのですが、実際なかなか良い映画でした。

 ストーリー自体は、先生からも見放されているような不良高校生の2人組、マサルとシンジが、あることをきっかけにボクシングを初めて…という、いわゆる「青春もの」で、今までの作品に比べると比較的分かりやすい話になっています。ただ、「青春もの」とは言ってもそこは北野武の作品らしく、変に熱くなったりクサくなったりするようなありがちな映画ではなく、どちらかと言うと、全体的に一歩引いたような視点で描かれています。時には、登場人物を一度持ち上げといて、いきなり突き落とすようなクールな演出もあったりしますが、かといって無機質な作品かと言えば、決してそんなことはありません。シーンの合間にちょっとした笑いを挟むことによって(特に漫才師を目指している別の2人組の使い方が秀逸!)、殺伐としたものになることを避けています。この辺のバランスの取り方は、やはりさすがという感じです。

 ところで、北野武作品の特徴として、途中の説明的な部分を省略して、いわば「起」「承」のあとにいきなり「結」を持ってくるような独特の演出方法があります。もちろん、これは、この「キッズ・リターン」でも非常に多用されていて、しかも今回は、それを平行して進んでいく幾つかのエピソードをカットバック的に繋いだりしながら行ったりもしています。ですから、上で、他の作品に比べて分かりやすい、と書きましたが、その間の展開を観る側がそれなりに考えながら観ていないとちょっと分かり辛いところもあるかもしれません。この辺が、タケシの映画は分かりにくい、と言われる原因の一つになっているんだとも思いますが、逆にこれによって、北野武作品の独特のテンポや間、また、笑いといったものが生み出されているんだとも思います。

 他にも、一見何気ないカットでも画面構成までしっかり考えられた上で撮られている(と思われる)カメラワーク、主人公以外のキャラクターまで気を配った演出と巧みに張られた伏線、必要以上に感情移入せずに淡々と流れる音楽、等々、魅力的な部分が多く、海外での評判の高さも何となく納得できる作品でした。いずれにせよ、北野武の次の作品も楽しみです。 

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