Vol. 13 「誘拐」

 今月は、昨年公開された邦画の「誘拐」です。主演は渡哲也と永瀬正敏。「なんだ、ま た、"永瀬モノ"かよぉー」という声が聞こえてきそうですが、はっきり言って、これも私の 趣味です。(笑)実際、常に良い作品(例えヒット作ではなくても)に出ていますし、い ろんな意味で、彼は間違いなく現在の日本を代表する「映画俳優」の一人だと思います。

 さて、この「誘拐」ですが、これは私が昨年劇場公開された時にぜひ観に行きたいと思 っていながら諸々の事情で行くことが出来なかった為、ビデオ化をずっと待っていた作品 です。話の内容は、一言でいうと「推理モノ」(?)です。とある商社の重役が白昼堂々 誘拐されます。犯人グループは身代金として3億円を要求。ただし、身代金の受け渡しにつ いては、犯人が指定した人物が一人で届けること、そして、その一部始終をTVを初めと するマスコミ各社に生中継させること、という条件を出します。この前代未聞の誘拐事件 の犯人を追うのが、渡哲也演じる実直なベテラン警部とアメリカ帰りでプロファイリング の経験もある若手エリート刑事の永瀬正敏のコンビです。この二人を含めた警察側と犯人 グループとの息詰まる頭脳戦が前半の見せ場になっています。次々と身代金受け渡しの指 定場所を変えながら警察を翻弄する犯人と、それを追う刑事。さらにそれを追い続ける数 十台のTVカメラ。果たして、犯人は何者で、その目的は?そして事件は無事解決するの か? この辺の展開は、日本映画とは思えないテンポの良さとスケールの大きさで、観てい てどんどん引き込まれてしまいました。

 中でも一番の見どころは、よくここまでやったなぁ、と驚かされる、都心での大規模ロ ケです。犯人から指名され約30Kgの身代金を持って走る人物とそれを追うマスコミ、さら に通行人その他のエキストラ等、キャストだけで総勢数百人、スタッフまで含めるとそれ 以上の大群衆が、新宿の歌舞伎町や銀座4丁目の交差点を実際に走り回って撮影していま す。しかも、当然、撮り直しはきかないので、ぶっつけ本番の一発撮りだそうです。アメ リカ映画なんかでは、市内で大がかりなロケを行うことは、それが例えNYであってもさ ほど珍しくはありませんが、東京の街なかではちょっとしたロケでもいろいろなところに 許可を取ったりするのが大変で、なかなか出来ないと聞いたことがあります。ましてや、 これほど大規模なものは過去にもあまり無かったのではないでしょうか? 実は、私がこの 作品を観たかった理由の一つがこのロケシーンだったんですが、その点では非常に満足で きました。

 ただ、ハイテンションな前半に比べると、後半は割と普通の日本映画のノリになってし まうのが、少し残念です。出来れば、あのままのテンションで一気に事件解決までいって 欲しかったのですが…。また、ややメッセージ性が強すぎた印象も受けましたが、この辺 は良くも悪くも日本映画という感じがします。公開当時、全体としては評判が良かったも のの、一部で「金の掛かった2時間ドラマ」という評価があったりした理由も何となく分か りました。それでも、「推理モノ」としては、それなりにドンデン返しもあって楽しめま すし、一度観終わった後、もう一度観たくなるような伏線の張り方もなかなか巧みで、私 としては、やはりそれなりに評価したい作品です。

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