Vol. 11 「機動警察パトレイバー2 -the Movie-」

 最近、新作映画を観ていないので、今月も旧作です。すみません。(来月は、観たい新作が何本かあるのですが)それで、今月は何にしようかと考えたのですが、結局、2月の話だから、という単純な理由で「機動警察パトレイバー2 -the Movie-」に決めてしまいました。

 さて、この「機動警察パトレイバー2 -the Movie-」ですが、これは、タイトルからも分かるとおり、オリジナルビデオ、TV、その他様々なメディアで制作されたアニメ、「パトレイバー」シリーズの劇場版の2作目です。ただ、第1作と比べるとその印象はかなり異なります。その大きな理由の一つは、娯楽性の高かった前作に対し、この作品は、どちらかというと監督である押井守のカラーが強く出た作品になっていることです。具体的に例を挙げると、本来、主人公であるはずの野明を始めとする特車2課の連中が冒頭と最後にしか登場せず、ほとんどストーリーは後藤隊長と南雲隊長、それに陸幕調査部の謎の男、荒川の三人を中心にして進んでいきます。また、前作では何度かあったレイバーどうしの派手な戦闘シーンも前述の最後の決戦部分くらいにしかありません。ですから、そういった前作のようなノリを期待して観ると完全に肩すかしを食います。実際、これに関しては公開当時もかなり賛否両論でしたし、私自身も初めて観たときは、正直言って「これで良いのかなぁ?」と思ってしまいました。

 いろいろとネガティブなことを先に書いてしまいましたが、実はこの作品は私の大好きな映画の一つです。では、どの辺が見どころなのかというと、まず、何といっても「アニメでここまで…」という程のリアルな画面です。それこそ、自衛隊のメカから舞台となる東京の風景に至るまでが非常に細かく描き込まれていて、特に、普段そこで生活している人でも見過ごしてしまうような、何でもない路地裏や廃墟のある風景等が精密かつ絵的に表現されています。同じように絵がリアルであることで有名な宮崎駿作品が特に自然の風景の描写に力を入れているのに比べると、そういう点でもとても対照的です。

 また、この作品では、これらのリアルな画面を表現するのにCGが随所に使われています。それまで、アニメ作品の中でのCGの使われ方というと、むしろ話題作りの一つであることの方が多く、その部分だけが浮いてしまってかえって作品の雰囲気を壊してしまうことも多々ありました。もちろん、技術的な進歩もありますが、この作品では、それが非常に自然に作品の中に溶けこんでいて、画面により説得力を持たせることに成功しています。ちなみに、この作品で作られたCGのノウハウは、押井監督のその次の劇場用作品である、「GHOST IN THE SHELL -攻殻機動隊-」でも生かされています。

 余談ですが、押井監督の作品には、必ずといっていいほど、「犬」、「トリ」、「魚」が、象徴的なモチーフとして作品内の随所に出てきます。また、この映画では「橋」も大きな意味を持ったものとして描かれています。残念ながら、これらがいったい何を意味しているのかということをここで解説することはできません。しかし、何か意味があって画面内に配置されていることは確かです。そして、それらについていろいろ考えながら観るのも、実は押井作品の楽しみの一つなのです。

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