Vol. 10 「わが輩はカモである(DUCK SOUP)」

 突然ですが、ふた月ほど前、インターネット上の某所で「マルクス兄弟というコメディアンの映画が非常に面白い」という話を聞きました。私は、マルクス兄弟という名前はその時初めて知りましたが、元々、コメディ映画は好きですし「それ程面白いのならぜひ観てみよう」いうことで、早速、その中でも特に面白いと言われていた「わが輩はカモである(DUCK SOUP)」を観てみることにしました。

 まず簡単に作品の紹介をすると、「わが輩はカモである」は1933年に作られたモノクロ映画で、内容はとあるヨーロッパの小国を舞台に、国の有力者の未亡人に気に入られてなぜか大統領になった男とそのどさくさに紛れてその国を乗っ取ろうとしている隣国のスパイとが繰り広げる、ドタバタコメディです。が、ストーリーはほとんどコントやギャグの状況設定のためにあるようなもので、展開自体はかなりいい加減です。

 「マルクス兄弟」と言うくらいですから当然兄弟で出演しているわけで、口から出まかせのふざけた大統領がグルーチョ・マルクス、間抜けな2人組の隣国のスパイにハーポ・マルクスとチコ・マルクス(特にこいつがクセ者(苦笑))、それに大統領秘書役のゼッポ・マルクスの4人が兄弟です。普段は役のためにメイクしていて分からないのですが、この4兄弟、なんでも素顔は全員そっくりなんだそうで、それを利用した鏡のパントマイムのギャグ(鏡に見立てた枠を挟んで、一人がもう一人のマネをする、例のアレ)などは、作品中でも見どころの一つになっています。また、基本は動きや行動の面白さによる笑いですが、モノクロ映画とは言ってもトーキーなので、ナンセンスなセリフやダジャレによる笑いも多いです。細かいギャグエピソードを繋げただけという感じのストーリー展開といい、個人的にはどちらかというとドリフやひょうきん族のコントに近いような気がしました。実際、マルクス兄弟から影響を受けている日本のコメディアンも多いらしいですし、例えば、ドリフのヒゲダンスのメイクや恰好は、恐らくこの作品の中のグルーチョがモデルではないかと思います。

 それで、一番肝心な「はたして面白いのか?」ということですが、上で挙げた動きで笑わせるシーンなどは確かに上手いですし、かなり笑えると思います。が、セリフのおもしろさ、特に韻を踏んだりダジャレで笑わせるようなところはやはり字幕だとちょっと辛いです。これは、この映画に限ったことではなく洋画のコメディ作品全体に言えることですが、こういう場合、大抵は字幕のほうでも翻訳者が勝手にギャグ(もちろん、原文のものとはまるで違うもの)を作ってしまう場合がよくみられます。直訳してしまうとギャグにならないので仕方無いのかもしれませんが、大抵は強引なダジャレだったりするので、かえってつまらなくなってしまうことも多く、また、面白かったとしてもなんとなく違和感を感じてしまいます。そんなわけで、私自身はツボにハマる部分はちょっと少なかったのですが、ただ、日本のコメディアンとかでもそうですが、初めて見る時はこちらも向こうのノリみたいなものが分からず、余り笑えなくて何度か見ていくうちに面白くなっていくという事がよくあります。そういう意味では、この作品もしばらくして観てみると結構印象が変わるかもしれません。

 CINE HOME